日はまた昇る──憂鬱とともに
朝、目が覚めると
そこにはいつもの部屋があって
使い古したベッドの上にいて
否応なしに
また現実が再生されていることを
突きつけられて
愕然となり
あぁ、さっきまで見ていた夢は
なんだったんだろうかと
ぼんやりとした印象しか
もはや思い出すことのできない
昨晩の夢の内容に思いを馳せては
どうして現実はどこまでいっても
どうしようもなく
同じように続いていくのだろう
続いていくしかないのだろうと
しばらく考えて
できるだけまどろみから覚めるのを
先送りにして
一日がちょっとでも短くなるように
祈りながら
毛布という聖母の温もりの中で
自分自身を抱いて
このまま陽が沈んでしまえばいいのにと
思うけど
この現実世界は本当に
救いようのないほど徹頭徹尾
自然法則に支配されており
時計の針が馬鹿真面目に
時を刻んでは
勤労の義務の履行を
促してきやがるので
仕方なしにベッドから
起き上がってみるけど
いきなり立ちくらみがして
視界が真っ青になっていくのを見て
やっぱり今日会社行くのやめようかな
どうしようかな
いやダルいとかそういうんじゃなくて
いやそれもあるけど
実際ちょっと具合悪く感じる気が
しないでもないし
あ、無理だわ
うん無理だ
今日会社行けないわ
trrrrrrrr
ガチャッ
『す、すいません。ゴホッ
ちょっと昨晩から具合がゴホッ
悪くなってしまってゲホッ
申し訳ないのですがガハッ
今日は会社をグエェ
休ませてもらいますゲェーッホ』
て言おうとしたけど
やっぱ会社の人たちから
疎まれるのが嫌だから
結局着替えて
朝ごはんを食べてしまい
どうにも動かすことのできない現実に
苛立ちながら
なんで夢の世界に
留まることができないのかなぁ
どうして夜眠れば
朝目が覚めてしまうのかなぁ
なんて思いながら
正直、もう目なんて覚まさなければいいのに
寒いんだから冬眠していればいいのに
むしろ永眠したいのに
と思うやいなや
電車の時間に遅れそうなので
さぁ今日も絶望するゾ☆
って自分を慰めて励まして
今日も会社へと出掛けるのでした
i
わたしは愛されたい 愛が欲しい 優しさに包まれたい 満たされたい 幸せになりたい けど愛はどこにある? 愛はどこで手に入る? 愛はいくらで買える? 愛の獲得条件は? 愛は…何で出来てるの? 愛は何? 愛って何なの? 愛の定義は? …愛が欲しいと言うけれど 愛は欲するものなの? 愛は与えるものと言われることもあるけど 何を与えるの? 何を与えればいいの? それは物質なの? 精神なの? 心なの? 魂なの? 脳内信号なの? 何なの? 愛は所詮は自己愛に過ぎないんじゃないの? 誰かに愛されたいというのは 誰かに構ってもらいたいだけなんじゃないの? そうして自身の寂しさを埋めたいだけなんじゃないの? 自分の満たされない気持ちを 他人に満たしてもらおうという甘えなんじゃないの? それとも誰かの人格を所有したいだけなのだろうか 彼氏をつくることで ──そもそも「つくる」という言い方も変だけど 彼を所有することに満足感を覚えるのだろうか 彼を自分のものにすることで ──「もの」にすることで わたしの所有欲が満たされ 幸福感に包まれるのだろうか あるいは彼氏の人格を支配したいのだろうか 彼を束縛して独占することで わたしは彼を征服し 下卑た悦楽に浸るというのだろうか? ──だからわたしはあの人に捨てられたのだろうか? わたしはあの人を愛していたつもりで 実は自分自身を愛していたに過ぎなかったのだろうか? 何だろう? 愛はそれ自体では成り立たないものなのかもしれない 愛の裏側には何かがある それは憎しみかもしれない 愛が表とすれば憎しみは裏 人を深く愛すれば愛するほど 愛が消えたときの憎しみも大きくなる 愛という言葉は実は成立せず 愛憎こそが愛の正体ではないか 愛と憎は表裏一体 憎があって愛は成立するんじゃないか だって愛は所詮自己愛でしかないのだから… いやそんなはずはない わたしはまだ本当の愛を知らないだけ きっとそう そうに違いないわ 愛は素晴らしいもののはずよ だから やっぱり 愛されたい… 先生 愛って何ですか?
再-生
真っ暗なトンネルの中を歩く
蝋燭一本の明かりを頼りに
おそるおそる前へ進む
足音が静寂を過ぎ越して
そそくさと立ち去っていく
水滴の垂れる音が
不自然な反響を呼んで
虚無の鼓動をざわつかせる
辺りは見渡す限りの闇
しかし、それは生きているようにもみえる
光なき空間に棲息する存在
それはわたしの身体を取り囲み
絡みついているみたい
──早くこのトンネルを抜けないと
あせりと不安が足を鞭打ち
漠とした暗色の海の中を泳がせる
だが、出口は見えない
ふと、立ち止まる
──わたしはなぜここにいるのだろう?
゜ ・
. † .
∵
*
・
声が聞こえる
かすかに聞こえる
なんだろう?
「お前はもう…」
「お前はだが…」
「お前はやはり…」
「お前はそれでも…」
「お前は…行くのか?」
「お前は…」
「お前…」
「おま…」
声は消えた
わたしはその場にしゃがみこみ
悩んだ
わたしはなんとなく理解した
この先に何があるのかを──
だから、わたしはもう行きたくない
と思った
行けばきっと…
周囲の暗闇が途端に心地よく感じた
それはわたしを取り囲んで
深く包み込み
わたしを優しく愛撫していた
そう、これでいいんだ
これでいいの
わたしは蝋燭の火を消して
まぶたをゆっくりと閉じた