そして宇宙死ね
この世に悪がはびこり
精神が絶望に侵され
自らの首を吊り
隣人へ包丁を突き立て
札束で愛欲を満たし
データをすり替えて改竄し
他人を目線で蹴っ飛ばし
偽善者の仮面をかぶり
その下で弱者を嗤い
我先と座席の確保に走り
路傍に麻薬を投げ捨て
化学調味料を貪り
醜悪な本性を電子に載せ
無知の剣を振りかざし
孤高を鼻であしらい
ありもしない自己の実現に拘り
他者からの承認をねだり
飛び出る杭を憎悪で打ち込み
無難なパステルカラーで個性を塗りたくる──
この病んだ宇宙の生活に
わたしはもう疲れました
地上に降り注ぐ宇宙線が
身体の中の魔法素子(マヌス)とぶつかって
わたしのこころに悪影響を与えます
この宇宙は病んでいます
ビッグバンによって<神>が死んだからです
わたしはもう駄目でしょう
精神が絶望に浸り過ぎてしまいましたから
死に至る病にかかってしまいましたから
せめて愛があれば…
あの人がちゃんとわたしのことを愛してくれれば
まだ救われたかもしれないのに…
さようなら
さようなら
何もかも、さようなら
そして宇宙死ね
終わりなき終わりの始まり
モノクロームの森林が
沈黙の砲声を響かせながら
幽遠な次元の彼方へ向かって
悲愴な想いを伝播する
物憂い風が空を撫で
虚飾に満ちた磁場空間を
情理を超えた眼差しで
包み込むように愛撫する
三つ目をした羊アタマの獣人たちが
滋味のない荒んだ大地を
羊水を求めて
這いずり回る
響き渡るは天使の歌声──
個我に囚われし哀れな者たち
その欲望は誰のもの?
快楽の果てに何があるのか
なーんにもなーんにもありゃしない
生と死とはポジとネガ
生は死へ至る旅路に過ぎぬ
死は次なる生への通過点に過ぎぬ
そこに意味などありゃしない
さまよえさまよえ
どこへ行こうがおんなじさ
終わりなき果てに向かって
生死の輪廻を掻き回すがよい
アハハハハハハハ──
誰からも必要とされていない感
わたしは何のために存在しているの?
誰のために生きているの?
わからない。
わからないよ。
わたしは誰からも必要とされていないし、
誰からも生きていて欲しいと思われていない、
──ような気がする。
たぶん。
わたしが存在することで誰かが得するわけでもないし、
むしろわたしが存在することで周囲の人間に迷惑をかけている、
──のではないだろうか?
おそらく。
わたしが会社に居られるのは労働力との等価交換なのであって、
わたしの存在そのものが受け入れられているわけではない、
──と思われる。
おおかた。
わたしが誰からもまともに相手されないのは、
わたしがろくすっぽ何にも出来ないから
──なんだろうな。
Maybe.
ああ、なんだろう。
この誰からも必要とされていない感は。
わたしが存在するということ。
その事実によって、世界に亀裂が入っているのかもしれない。
わたしは呪わしい存在なのかもしれない。
私という存在があることで、この世界は少し歪んでしまったのかもしれない。
量子的もつれが生じてしまったのかもしれない。
わたしは、一体・・・
どうせわたしがいることで誰も得しないのならば、
むしろわたしは居なくなってしまった方がいいんじゃないかな?
そうすれば世界は良くなるかもしれない。
わたしが消えることによって、何らかの因果の鎖が解けて、
誰かの笑顔がよみがえるのかもしれない。
量子もつれが解消するのかもしれない。
世界は収束して、全てがまるくおさまるのかもしれない。
──いいや、それはないか。
どうせわたしは日陰者。
因果律に影響を与えるほどの存在感もないんだわ。
ああ、哀し。
こうして憂鬱な一日がまた終わる。
わたしのこころは冷蔵庫
わたしのこころは冷蔵庫
ひんやり冷たく
中は空っぽ
思い出はみんな生野菜
カビて腐って
黒くなって…
しなしなになった大根は
わたしの性根を
よく表す
鼻をつんざく腐乱臭
わたしのこころは
ご臨終
賞味期限が切れているのは
食べ物よりも
わたしなの
アハハハ
アハハハ…
今日もあの人との思い出を
冷蔵庫に入れて
保存するの
どんなに腐ってしまおうが
それがなければ
駄目だもの
わたしのわたしの
大事な大事な
黒歴史──
だもの
漏洩
もう我慢の限界
何もかもが己の殻を破り捨てて
中心無き根源へと
漏れ出ていく
言葉の網の目の間隙から
言いようのない<ソレ>が
処女膜を食い破って
顕現する
終末の彼方の地平が
メビウスの輪のように
無限ループして
終わりなき夢のまた夢が
網膜の裏側を駆け巡る
混沌の始原への回帰に
世界は恍惚として悦楽に浸り
邪なる境界の民どもが
淫靡な饗宴に耽溺する
漏洩した憎悪の洪水は
ノアの方舟さえも呑み
あらゆる意味は剥奪され
すべてが指向の乱反射と化す
この病んだ迷宮を脱出するには
あらゆる現象を否定しなければならぬ
全否定の後に残るは、清澄なる水鏡
そこに映る己が姿の浅ましさよ
──汝、自身の底を掘れ
深奥の虚無を克己せよ
さすれば汝、永遠の安らぎを得ん